矢野絢子 ニーナ その椅子は木で出來た丈夫な椅子 こげ茶色のクッション木彫り花模様肘掛 背もたれの両端には小さな赤い石 それはそれは美しい木の椅子だった その椅子を作ったのは椅子職人の爺さん 曲がった腰慣れた手つき鋭い目 出來上がった椅子があんまり美しかったので 死んだ妻の名前をこっそり入れたのさ 店先に置いた椅子はすぐに客の目に留まり やってくる客についつい爺さん「売り物じゃない」という 何人めかの客が來てしばらく話し 爺さんはついに言った「売りましょう」と 椅子は大きな屋敷の大きな広間に置か